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脳血管障害

脳卒中とは、脳梗塞・脳内出血・くも膜下出血の総称です。 高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙・飲酒などと深く関連しています。脳血管造影検査が必要となることがあります。

​脳 梗 塞

脳梗塞は、脳の血管が狭窄もしくは閉塞することで脳細胞に血液が十分にいきわたらずに起こる病気です。 高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・運動不足・喫煙・多量飲酒などによる生活習慣病の影響が強く、動脈硬化という現象が大きな原因の一つです。 一方で不整脈や弁膜症などの心疾患が原因となる場合があります。突然の運動麻痺、感覚障害、呂律が回らないなどの症状で発症します。

 

[治療法]

  • 抗血小板剤・抗凝固薬などの薬による内科的な治療が主体です。

  • 発症4.5時間以内であれば、アルテプラーゼという血栓溶解薬で治療を行うことが出来ます。

  • 発症早期の太い血管が閉塞した脳梗塞では、血管内治療によって血栓の回収を行います(急性期血行再建術)。

急性期血栓回収療法

 

血管閉塞により血液が流れなくなった場合(脳梗塞)、発症から数時間以内であれば血流を再開することにより脳神経を助けることが可能です。特に主管動脈と呼ばれる脳を栄養する太い動脈が閉塞した場合、著しい機能障害、場合によっては生命に危険をともなうため、閉塞した血管を再開通させることで予後の改善が見込まれます。カテーテルをもちいて、閉塞をもたらしている血栓と呼ばれる血の塊を回収し、血管の再開通を得る手術を急性期血栓回収療法と呼びます。

2018年3月に発表されました血栓回収療法の適性使用指針第3版では、発症6時間以内、脳梗塞が広範囲に完成していない、中等度の症状がある方に強く勧められています。また最終健常時刻から6時間を超えた脳主幹動脈の急性閉塞でも、条件はありますが、24時間以内にカテーテルを用いた血栓回収療法を行った方がいいとする記載もされています。再開通できた患者は半分の方が自宅復帰でき、血栓回収療法が行われなかった方と比較して自宅に帰ることができる方が20%増加すると言われております。
このようにカテーテルを使用した急性期血栓回収療法は急性期脳梗塞治療に不可欠な治療になっております。当院当科では24時間体制でこの治療に多職種で取り組んでおり、2015年1月から2020年1月までに116人の患者に治療を行い良好な成績を得ております。ステント型や吸引型の回収機器が図のように次々と承認されており、患者様の機能回復率の向上が今後も見込まれております。

画像:左内頸動脈閉塞症例 ステントリトリーバーを用いて血栓回収

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脳梗塞

​脳 内 出 血

脳梗塞と同様に動脈硬化が主たる原因ですが、とくに高血圧の影響が強いことが分かっています。血圧は年齢とともに上昇することが多いので、 定期的に血圧測定を行い、現在のご自分の血圧を知ることが予防への第一歩です。通常、脳梗塞よりも重症化し、後遺症を残すことも多いので予防が最も大切です。

[治療法]

  • 点滴・内服など内科的治療が主体です。

  • 手術治療が必要な場合、当院では開頭あるい低侵襲な内視鏡的血腫除去術を施行します。

脳内出血

​脳 動 脈 瘤

脳動脈瘤は成人の2-4%に認められます。破裂した場合、致死率の高いクモ膜下出血を来たします。前向き観察研究(UCAS Japan)において、未破裂脳動脈瘤の年間平均出血率は0.95%と報告されています。出血のリスクは瘤の大きさ、場所、形状によって異なっております。推測される破裂率をもとに、治療を行うか、経過観察(画像検査にて動脈瘤のサイズ・形状をフォロー)するか決定します。治療法は、手術治療しかありません。

 

[治療法]

  • 脳血管内治療(主にコイル塞栓術)

  • 開頭クリッピング術

当院では両方の治療を行っていますが、動脈瘤の大きさ・形・場所、患者さんの年齢や全身の状態によって、より安全にできると思われる治療方法を選びます。基本的には低侵襲な脳血管内治療をまず検討します。

脳血管内治療

1.コイル塞栓術

 血管内治療(コイル塞栓術)は、足のつけ根から細い管を挿入し、血管造影装置(X線)を行いながら進める方法で、近年増えてきている治療法です。プラチナ製の非常に細くて柔らかいコイルを動脈瘤の中に充填し、血流を入らなくすることで脳動脈瘤の破裂を予防します。手術時間が短く、開頭術と比較して身体への負担が少なく高齢者も受けやすい治療法です。

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<コイル塞栓術> 塞栓前

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塞栓後

2.フローダイバーターステント留置術

これまで治療困難であった大型の脳動脈瘤に対して、2015年4月よりフローダイバーターステントを用いた塞栓術が薬事承認されました。密に編み込まれたステントを脳動脈瘤の親血管に留置し、脳動脈瘤への血流を減少させ血栓化を促すと同時に、脳動脈瘤のネック部分での内膜形成を促し血管を修復し、脳動脈瘤の治療を行います。本治療法は適正使用指針に基づいた実施基準により、使用可能施設が限られています。当院ではすでに80症例(2019.7月)以上の治療実績があり、良好な治療成績が得られています。

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術前

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フローダイバーター留置

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術後6ヶ月

​クリッピング

開頭手術(クリッピング法)は、手術顕微鏡を使って瘤の状態を直接目で確認して行う方法で、歴史が古く確実性の高い治療として今でも数多く実施されています。動脈瘤の根元の部分を、チタン製のクリップではさみ動脈瘤への血流を完全に遮断します。血管内治療(コイル塞栓術)に比べて、その根治性が利点となります。当院では十分に手術経験のある術者が手術を行い、良好な治療成績を残しています。

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​手術前

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​手術後

脳動脈瘤
脳動静脈奇形

脳動静脈奇形(AVM)

脳動静脈奇形は脳の動脈と静脈が異常な血管の塊(ナイダスと呼ばれる)を介して直接吻合している血管の奇形です。脳出血やてんかんの原因となります。年間の出血率は2%程度です。脳出血やくも膜下出血を起こした場合、その年の年間破裂率が上昇します。

 

[治療法]

  • 脳血管内治療(塞栓術)

  • 開頭能動静脈奇形摘出術

  • 放射線治療(ガンマナイフ)

 

*病巣のサイズや形態によってこれらの治療法を組み合わせて治療を行います。脳血管内治療のみで根治できる例もあり、当院では積極的に行っております。

<Onyxを用いた脳血管内治療>

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​塞栓前

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​塞栓後

硬膜動静脈瘻

硬膜動静脈瘻

正常な血管は、太い動脈から細い動脈へ、さらに細い毛細血管を経て静脈へとつながって行きます。ところが、硬膜動静脈瘻という病気では硬膜の中の動脈と静脈が直接つながっている状態となり、その瘻孔を通して血液が異常静脈、正常の静脈へと流れます。シャントの部位により物が二重に見えたり、結膜が充血したり、耳鳴りがしたりするなど様々な症状を呈します。特に脳内の静脈への動脈血の逆流があると脳出血や痙攣発作、認知機能低下などを引き起こす可能性があり危険な状態です。この病気が起こるきっかけは外傷、静脈洞血栓症などが言われていますが、多くの例では原因ははっきりしません。日本では年間100万人当り約3人程度で発症する稀な病気です。治療法として血管内治療、開頭術、放射線治療があります。危険性が低く、根治性の高い血管内治療が主に行われます。

[治療法]

 ・脳血管内治療(塞栓術)

 ・開頭手術

 ・放射線治療(ガンマナイフ)

*当院の特徴

当科では血管内治療を中心に行っており、全国から治療困難な患者さんを紹介いただいています。従来はコイルや重合型液体塞栓物質であるn-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)を用いていましたが、シャント部の完全閉塞を得られないことがありました。2018年9月からOnyxと呼ばれる非接着性の析出型塞栓物質が保険償還されたことにより、今まででは根治が難しかった症例に対し、より短い治療時間でより高い完全閉塞率を得られるようになっています。当科ではOnyxを用いた硬膜動静脈瘻の治療を積極的に行っており、豊富な治療経験を下に、安全に治療を行っております。血管内治療での入院期間は1週間程度です。

画像:静脈洞交会部硬膜動静脈瘻 経動脈的塞栓(Onyx) 左2枚:術前、右:術後
 

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頸部頸動脈狭窄症

頸部頸動脈狭窄症

頸部頸動脈狭窄症とは、頸部の頸動脈分岐部に動脈硬化性粥状変化により血管の狭窄を生じ、これが原因で脳血流量の低下をきたしたり、頭蓋内塞栓の原因となったりして脳梗塞を起こす原因となりうる疾患です。以前は、欧米人に多い疾患とされてきましたが、日本人の食生活の内容が年々欧米化するにしたがい徐々に増加傾向を示しています。基本的には内服薬にて治療を行いますが、狭窄の程度が強くなると、その後の脳梗塞を予防するために手術治療が必要となります。手術治療には頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置術があります。

 

[治療法]

  • 薬物療法(抗血小板剤)

  • 頸動脈ステント留置術

  • ​頸動脈内膜剥離術

 

*手術治療が必要な場合、狭窄部位、合併症、動脈硬化部の性状や年齢などを考慮し、最善の治療法を行います。当院ではより低侵襲な頸動脈ステント留置術をまず検討します。

頸動脈ステント留置術

足のつけね(大腿動脈)に管を留置し、カテーテルを狭窄部に誘導します。狭窄部を風船を用いて広げた後、ステントを留置します。治療時間は30分から1時間程度で、局所麻酔で行います。手術後、数時間の安静を保っていただいた後は歩行可能となります。治療による入院期間は1週間程度です。

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術前

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術後

頸動脈内膜剥離術

全身麻酔下に頚部を切開し、狭窄部に到達します。内シャントと呼ばれる器具で、脳への血流を保った状態で、病変部の動脈切開を行います。顕微鏡下に内膜と中膜を丁寧に剥離して粥腫(動脈硬化病変)を摘出します。粥腫摘出後は、血管壁を縫合します。術中の虚血を感知するためにINVOS、SEP、MEPなどを用いて、安全に手術を行っております。直に動脈硬化病変を摘出するため、再狭窄のリスクが減少します。ステント留置術と同様に、1週間程度の入院で自宅に退院できます。

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​もやもや病

 もやもや病は脳の血管に生じる病気です。内頚動脈という太い脳血管の終末部が細くなり、脳の血液不足が起こりやすくなります。このため、一時的な手足の麻痺、言語障害を起こすことがしばしば見られます。血流不足を補うために拡張した脳内の血管、“もやもや血管”が脳底部に見られることが特徴です。また、この発達したもやもや血管は破綻しやすく脳出血の原因にもなります。この病気は家族内で発生することが知られております。

 無症候性で、精密検査で脳血流が保たれていれば経過観察します。しかし、脳血管障害に伴う症状をきたしたり、脳血流の低下がみられる場合には、新たな血流供給路を形成する、バイパス術を行ったり、血液をサラサラにする抗血小板剤という薬を内服する治療法があります。

[治療法]

・ 経過観察

・ 内科的治療(抗血小板剤の内服など)

・ 手術治療

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直接バイパス手術の様子

もやもや病
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